おいしいものだけを売る「奇跡のスーパー:まるおか」(後編)

みなさん、こんにちは。「新しい農業のカタチづくり」を目指している椴 耕作です。
今回も、“食の真のおいしさ”を求めてやまない「スーパー:まるおか」さん(後編)について、ご紹介したいと思います。
後編では、「スーパー:まるおか」さんの「食」を通じて育てる「人と心」に迫ってみたいと思います。
※前編と同じく、以下、太字は株式会社まるおか代表取締役社長 丸岡 守氏(以下、丸岡社長)の著書『おいしいものだけを売る 奇跡のスーパー『まるおか』の流儀』(株式会社商業界 出版)からの引用文です。
①「記憶に残るおいしさ」とは…(同書籍 P110~P111)
まず、みなさんに「記憶に残るおいしさ」について、質問してみたいと思います。
みなさん、「記憶に残るおいしさ」と聞いて、何を思い浮かべますか?
「記憶に残るおいしさ」というワードそのものを、普段はあまり意識したことがないかもしれませんが、逆に、「この味噌汁の味は、おふくろの味だ…。」というフレーズを聞くと、何か思い浮かんでくるものがあるのではないかと思います。
“味わった瞬間”、その当時のおいしかった料理、料理だけではなくその食事をしている風景、延いては、その頃の暮らしぶりまで、鮮明に蘇ってきた経験があるのではないでしょうか。
それが、「記憶に残るおいしさ」なのです。
こうやって、あらためて考えて見ると、「おいしさ」は記憶までも蘇らせてくれる「すごい力」を持っていることに気づかされます。
丸岡社長は、本の中で「人は食を介して、記憶を旅することができる」と表現しておられます。まさに、至言だと思います。
そして、「おいしさ」は「笑顔」をつくり、「幸せ」を感じさせてくれます。
「まるおか」では、
- まじめで、ごまかしのない本当のおいしさ
- 素材の味を生かした素直なおいしさ
- 誰が食べても安心できる自然なおいしさ
にこだわり、真に「おいしい」商品を一つでも多く仕入れようと、日々奮闘されています。
確かに、「おいしい」商品は、私たちにたくさんの「幸福感」をもたらしてくれます。ただ、「おいしい」商品は、一般のものより手数を加えた生産方法が必要であるため、どうしても生産価格が高くなります。当然、その分、販売価格も高くなります。そのことをお客様へどう伝え、理解して購入いただくかが大きなポイントとなり、そこには“人が育つ”ヒントも隠されています。
②「金」の商品をいかにして販売するか…?!(同書籍 P132)
「おいしい」商品は、「金・銀・銅」に例えると、「金」の商品ということになります。「金」の価値があるだけに、当然、販売価格も高くなっているので、一般的な方法では、なかなかお客様にご購入いただくことはできません。お客様に「おいしい」商品をどうにかして伝えたい一心で、丸岡社長は、下記の販売方法に挑みます。
<その1>:「試食販売」(同書籍 P132)
「試食」を通じて、自分自身が惚れ込んだ商品を、情熱を持ってお客様へ説明します。商品に対しての真の愛情があれば、(中略)その情熱は間違いなくお客様に伝わります。
ただ、売れるようになるまでには期間がかかります。
そうなると、その間は「廃棄ロス」も多量に出てしまいます。ごく普通の経営者であれば、この「廃棄ロス」に耐えることができず、結局、「金」の商品を売ることをあきらめざるを得なくなってしまうのです。
しかし、丸岡社長は違いました。
「廃棄ロス」を「金」の商品が売れるようにするための先行投資と位置付けたのです。
そして、丸岡社長は、商品を育てるのは子どもを育てるのと同じで、焦ることなく気長に待つことが重要であるとも述べています。
とにかく、売れるまで、己を信じて辛抱強く待つことができるか否かがポイントなのです。
「おいしい」商品を通して、経営者はこのように“耐え忍ぶ心”を育てられるのです。
<その2>:まるおか流POP術(同書籍 P161)
もし商品が売れないとしても それは価格が高いからと決めつけるのではなく、「何をすればお客様に伝わるだろうか?」と考えることが肝要だと、丸岡社長はおっしゃっています。
それは、その商品の価値が、お客様へ上手く伝わっていないだけの可能性があるからです。
お客様へその商品価値を上手く伝えるため誕生したのが、現在のまるおか流POP術です。同書籍P161~P163によると、その特徴は大きく5つあります。
- お客様全員に伝えようとするのではなく、対象をしぼって呼びかけます。
- お客様の声をPOPにそのまま使います。
- 具体的な数字を盛り込みます。
- 自分が好きな理由などを書きます。
- 知らないことを教えて差し上げることです。
「この5つを意識しながら、気持ちを込めて書き続けていれば、いつか伝わる日が必ず訪れます。」と、丸岡社長はその伝え続けることの大切さを説いておられます。
このような「POP作成」を通して、「いかに工夫して商品価値を伝え続けるか」という“発想力”とも呼ぶべき力を育てられるのです。
このように、「金」の商品、「こだわった」商品を扱うお店であれば、その従業員の方への教育も特別なものがあるのではないかと考えてしまいがちです。
従業員の方への教育は、どんな方法でなされているのでしょうか。
③社員は、〇〇〇に育てられる。
丸岡社長は、「私が従業員に対して特別な教育をすることはなく、従業員が自信を持てる場をしっかりと整えてあげれば、あとはお客様が従業員を育ててくださる」(同書籍P187)とおっしゃっています。すると、表題の「〇〇〇」には、「お客様」という言葉が入りますね。
「お客様が従業員を育てる???」
どういうことかと言いますと、「まるおか」へは、食への関心が高いお客様が数多く訪れます。商品に対する質問も、より詳細で多岐にわたってきます。そうなると、従業員の方も、そのお客様へより良い回答を差し上げたいという気持ちから、より深く勉強するようになってきます。
そういうやり取りを繰り返す中で、従業員の方のレベルはどんどん上がっていき、次第にお客様へいい商品のご提案をもできるようになるわけです。
このことが、「社員は、お客様に育てられる。」と言われている所以です。
また、丸岡社長は、同書籍 P189で「まるおか」の仕事について、
私たちの仕事は、ただ食べものを売ることだけが目的ではありません。食べることを通して「幸せ」を感じていただき、その先にある「健康な暮らし」を意識してもらうことまでが仕事なのです。
とおっしゃっています。
この「仕事の流儀」を社長、従業員一体となって取り組んでおられるからこそ、今の「まるおか」があるのだと思います。
ここまで、「スーパー:まるおか」さんの「食」を通じて育てる「人」にスポットを当ててみました。次は、「食」を通じて育てられる「心」についてです。
④食べものは心を育てる(同書籍P195~P198)
私たちは、日常的に食事を取りますが、それは生きていくためのエネルギーを得るためだけに食事をするのでしょうか。
そうであれば、1日分の栄養素が詰まったパック等を補うだけで事足りるということになります。でも、違いますよね。他の動物と違い、楽しみながら食べるというヒトの食事には、 心を育み人生を豊かにする感性を伸ばすというとっても大切な役割があります。
子どもたちは、大人の行動をよく見ていて、大人が楽しそうに食事をしている姿を見て育てば、食事は楽しいものだと無意識のうちに学ぶことができるのです。
そういう姿を見せるためにも、まずは私たち大人が、おいしいものを、おいしいと感動できる素直な心を持つことが大切なのです。
おいしい食べものは、食事での会話を楽しく弾ませてくれます。家族と一緒に、おいしいものを食べ、1日のいろいろなできごとについて会話をしながら食卓を囲んでの食事は、とても楽しいものです。その中に愛情のこもった料理があれば、子どもたちの心へ思いが届き、心の満足度がとても高くなるのです。体が満足する料理は、きちんとしたお店を選べばいくらでも手に入るでしょう。しかし、心が満足する料理はそう多くはありません。(同書籍 P223)
「食べものは心を育てる」という、その“食”の持つ、目に見えぬパワーとも言うべきその偉大な力を知れば知るほど、私たちは“食”の大切さを、今一度考えて見る必要があるように思えます。
おわりに
丸岡社長は、同書籍P231~P232で、
小さな店だからこそ、その一品にかける情熱は誰にも負けてはなりません。自信の持てる一品を揃えることで、商品の一つひとつがより一層輝き始める姿を、何度も何度も目の当たりにしてきました。すぐ目の前にある利益だけを見ていれば成長できる時代は、もう終わっているのです。
と述べておられます。
特に、「すぐ目の前にある利益だけを見ていれば成長できる時代は、もう終わっている」。
大変に重みのあるお言葉だと思います。
私たちは、コロナ禍の今だからこそ、もう一度原点に立ち戻り、足元をしっかり見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
人間が地球上のひとつの生物ということを考えれば、自分の住んでいるところで、その時期に取れる旬のもの、それも自然栽培に近い形のものを食すということが、一番体にいいということは、自然の理に適っているわけです。
これからの時代の健康を考えても、真の食材で、病気にならない体づくりを行っていくということは、今、まさに求められているものだと思っています。
特に子どもの心を育む食事については、次世代を担う人材をしっかりと育てるという観点からも、愛情のこもった料理を提供できる環境がぜひとも必要です。
丸岡社長からは、「おいしいもの」に秘められた真の食材のすばらしさ、本当の食事の大切さを、あらためて教えていただいた気がします。
丸岡社長は、最後に、
どれだれ物質が満たされ豊かになったとしても、精神までもが満たされるわけではありません。精神が満たされる商売は、これからも永遠に求められていくことだけは間違いない真実でしょう。
私の歩む道はそこにあるのです。(同書籍 P233)
と締めくくっておられます。
「精神が満たされる商売は、これからも永遠に求められていく…」
もちろん、「食」もこの中に入ってくるので、私も全く同感です。
「スーパー:まるおか」さんの、今後の益々のご発展、ご活躍を願ってやみません。
株式会社まるおか のWEBサイト→https://www.e-maruoka.jp
次回は、新しいスタイルで農業経営支援に飛び回っておられる「東大卒、農家の右腕になる」の著者、佐川友彦氏の取組みにフォーカスしてみたいと思います。
※次回より椴耕作のコラムは「こちら」で掲載させていただきます。